最近、総理大臣を国民投票によって選ぶ「首相公選制」が話題になっています。また、同じように地方レベルでも「住民投票制度」が話題になっています。そこで、投票掲示板・第4回のテーマは、首相公選制と住民投票制度です。

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  ※以下、投票掲示板をつくるにあたって、今回はうちのひとに論点をまとめてもらいました。

■ 首相公選制

 「総理大臣も選挙で選びたい」「自分たちが直接選んでもいない総理大臣の失政に対して、連帯責任を取らされるのは、納得できない」といった意見は古くからありました。

 ただ、最近になって小泉純一郎首相が導入に前向きな発言をしたことから、実現を期待する声が一気に高まっています。

■ 住民投票制度

 また、住民投票制度についても、「選んだ政治家のすべての政策に賛成なわけじゃない」「大事なテーマは直接国民に意思を問うべきだ」といった意見が古くからありました。

 ただ、最近になって、市町村合併や原発問題・公共事業の是非など特殊な課題について、住民投票が実施されるようになってきたこともあり、制度の拡大を求める声が強くなってきました。

 どちらの制度も、議会に委ねる(間接民主主義・議会制)だけでなく、有権者の政治参加をよりいっそう進めて(直接民主主義)、政治を変えようとするものといえます。

■メリットとして指摘されている点

(1)常に有権者の意思をダイレクトに反映させられる
(2)政治家が派閥や支援組織だけでなく、常に直接国民と向き合うことになるため、政治不信の解消につながる
(3)議会と行政との癒着・談合が減ることで、議会(議論)も活性化する。
(4)国民の支持を背景に思い切った改革が実行できる可能性が高い
(5)派閥政治に長けた者ではなく、国民に信用されている真の政治家が活躍できるようになる
(6)政策が直接テーマになるので、国民の政治教育の機会が増え、社会意識が高まる(住民投票制の場合)
(7)有能な人物であれば、政党に入ったり、議員にならずとも、首相になることができるようになる(首相公選制の場合)
(8)内閣(行政)と議会の位置づけがハッキリすれば、各議員も信念に基づいて行動しやすくなる(首相公選制の場合)。
(8)直接投票になることで、主権者としての自覚を促す(責任感を感じる)ことができる

■デメリットとして指摘されている点

「首相公選制」の課題として指摘されているもの

(1)本人の適性や能力と関係なく、首相が選ばれる可能性がある
(2)芸能人などの当選(や失政)を見ていると、いまの日本での導入は危険ではないか
(3)世界で唯一、首相公選制を導入して注目されたイスラエルでは、わずか3年で失敗に終わった(イスラエルの失敗に学ぶことができるか?)
(4)議会の統制を受けない制度になると、現在の地方自治体のように、かえって民意が反映しない危険性もある
(5)憲法を改正しなければならない
(6)日本の首相の権限は小さく、公選制にしても意味がない(首相権限を強化しないと意味がない)
(7)対外的に天皇制との関係が説明しにくくなる(天皇制と両立するか?)
(8)公選制だけでなく、リコール制度も必要ではないか
(9)首相の権限や存在感が強くなると、いまの地方議会のように「オール与党政治」が蔓延する可能性もある


「住民投票制度」の課題として指摘されているもの

(1)住民に正確な情報が提供されないと、誤った判断をしがちになる。
(2)自分に利害関係が強いテーマの場合、感情的になって公正な判断ができない場合がありうる。
(3)行政のトップや議会の判断と異なる結果が出た場合にどうするのか、整理しておく必要がある。
(4)いわゆる「迷惑施設」(ゴミ処理施設など)が設置できなくなる可能性があり、その結果、国民全員が困る可能性も出てくる。
■ 導入の可能性は?

 実際に「首相公選制」を導入するには、憲法改正が必要となります。

 憲法改正は、(1)国会の発議→(2)国民投票で過半数の賛成→(3)国会議員の2/3の賛成が必要で、とても条件が厳しくなっています。その意味では、賛成派も、反対意見を汲み取りながら相当譲歩しなければ、いつになっても「首相公選制」は実現しないと言えるでしょう。

 とくに、現在の憲法では「国会は国権の最高機関」ということになっていますが、首相公選となれば、そうではなくなります。国会の権限が縮小しかねないわけで、派閥順送りでポスト待ち(順番待ち)をしている議員などが反発する可能性があります。

 同じように住民投票制度についても、場合によっては投票結果が議会の決定と「ねじれ」を起こす可能性があります。このため、議会の軽視だと反発する議員も多いかもしれません。

 しかし、どちらの場合も、議会が同意しなければ導入することはできません。これをどう乗り越えるかが、実は最大の課題と言えるでしょう。導入をめざすには、現実問題として折衷案(準公選制や諮問制といったような妥協案)の検討も必要でしょう。


■「首相公選制」 世界各国の例を見ると・・・

 主要国で「首相公選制」を導入している国はありません。

 先進国で純粋な議院内閣制をとっているのは、日本のほかイギリスやオランダ・イタリアなどがあります(議院内閣制とは、議会の信任のもとに首相(リーダー)が存在している制度。リーダーは直接国民投票で選ばれません)。

 国王(元首)の存在に配慮して首相公選にしていない国(イギリス・オランダ)や、かつて自国でファシズムが生まれたことから個人(大統領)に大きな権限を与えることを選択しなかった国(イタリア)などが、議院内閣制をとっています。

 つぎに大統領制(大統領(リーダー)と議会が完全に独立した形の政治体制)。大統領の存在する国は多いですが、すべての国がアメリカのような分かりやすい大統領制をとっているというわけではありません。

 たとえば、フランスには大統領が存在していますが、首相も存在しています。公選制による「大統領」と、議会の多数派を代表する「首相」に行政権を分離させた「大統領制+議院内閣制」の中間型になっています(※もちろん、それでも大統領の権限はとても強いものがあります)。

 また、ドイツでは公選の大統領が存在しているものの、独裁を防ぐために大統領は名誉職化してしまっており、実際の行政権は首相が握っています。(※その意味では、議院内閣制。なお、これも戦前、民主主義の中からファシズムが生まれたことの反省から生まれているようです)。


■ 失敗の教訓から学ぶ必要も

 世界で唯一「首相公選制」を導入したことのある国は、イスラエルです。

 イスラエルでは、5年前、議院内閣制を維持しつつ首相公選制を導入。日本がめざす首相公選制と同じスタイルであったため、その行方が注目されていました。

 しかし、イスラエルでは、公選された首相と議会との関係が安定せず、短命政権が相次いでしまい、政局が混乱。その結果、ついに2001年3月、イスラエルの首相公選制は廃止されてしまいました。

 現在では、首相公選制を採用している国はありません。もし、真剣に導入をめざすなら、イスラエルの「失敗の教訓」から多くを学ぶことが必要かもしれません。


■「どんな首相公選制をめざすか」は、まだ整理されていない

 日本の場合、首相公選制の導入といっても、(1)「大統領制に近い公選制」を求める意見もあれば、(2)「議員内閣制(政党政治)を否定しない公選制」を求める意見もあって、きちんと議論が整理されているわけではありません。

 「首相公選制」の提唱者である中曽根康弘・元首相は、「政治の癌は、派閥政治である」と述べ、派閥闘争の後に生まれた首相では、政治は変えられないと主張しています。その著作によれば、中曽根元首相の想定する首相像(制度)は、アメリカ型の大統領を念頭においた構想のようです。

 ただ、むしろ最近になって首相公選制の導入を求めるようになった方の多くは、「議院内閣制を修正する意味で首相公選制の導入を求める」といった方が多いようで、さまざまな提案が出されています。


■すでに大統領制の地方自治体(知事や区市町村長は公選制)

 吉村正・早大名誉教授(故人)は、首相公選制を求める中曽根元首相の意見に対して、「日本政治の欠陥は中曽根氏の言うように議院内閣制にあるのではなく、政党が悪いことに起因しているのである」と反論し、疑問を投げかけています。

 現在でも、研究者の多くは、慎重論をとっているようです。導入にあたっては、制度的に矛盾を抱える部分が多いことが、その最大の理由かもしれません。また、政治を変えるには、政党のあり方の改善(政党の民主化・近代化)が必要で、かりに首相公選制を導入しても、政党や派閥(ひいてはそれぞれの議員や有権者の意識)が変わらなければ、実は何も変わらない・・・という批判も強いようです。

 実際、地方自治体では、知事や区市町村長をリーダーとする大統領制がとられていますが・・・結局、素晴らしいリーダーが選出されたときはよいのですが、そうでない場合には、最悪の結果になってしまう可能性もあります。公選制を検討するなら、「リコール制度」の取り扱いをどうするか、同時にしっかり検討しておく必要があるでしょう。

(以上の中曽根元首相・吉村名誉教授の発言については、『いま、「首相公選」を考える』 弘文堂編集部編より引用)。


■ 住民投票制度と賛成反対がねじれているのは、なぜ?

 かつてファシズムの台頭したドイツにおいて、大統領が形式的な存在になっているように(実際の行政権は議会が選ぶ首相にあります)、同じくファシズムの台頭した日本やイタリアでも、純粋な議院内閣制を選択しています。

 日本だけがここにきて「大統領制的な首相公選制」を模索する動きが加速していることについて、いわゆる左翼政党の方からは「右傾化」「憲法9条改憲への呼び水」と警戒する声が出ています。

 左派の政党は、一般に「市民が主役」と言った主張が多く、住民投票制度については賛成されていますが、首相を市民が直接選ぶことについては、反対されているようです。一方で、右派の方の中には、首相公選制に賛成しても、住民投票制度は反対という方も少なくないようです。

 どういうわけか、同じ「直接民主主義」を求める動きでも、このような「ねじれ」があるのです。論理矛盾というか、とても面白い現象だと思います。

 こうした疑問については、水島朝穂・早大教授が、次のように指摘しています(引用先:同上)。

 「首相公選論は、自民党からすれば、人々を憲法改正へと誘導するタクティクスとしての性格が強い。一方、野党とくに民主党の一部議員のなかには、政権奪取のために首相公選制導入を主張する者もいる。政党の側の弱点を制度のせいにするという点では、両者に奇妙な一致がみられる」
 「かつての首相公選論は、およそ通常の手法では首相になれない小派閥に属する政治家が、派閥力学を超越した論理を求めて辿り着いた手段的主張といえる。だが、とうの中曽根内閣は、最大派閥の田中元首相のプッシュによって誕生した・・(中略)・・40年ぶりに首相公選を説く小泉の場合も、「世論の圧力」を使って、党内の派閥構造を改編する狙いがあるのだろう」

■ ご意見をお聞かせください。

 どんな「首相公選制」「住民投票制度」を導入するかによっても、意見が変わってくるかもしれません。まだ単に「賛成」「反対」だけ問うには無理がある段階かもしれませんが、今のところ、みなさんはどんな意見をお持ちですか?ご意見をお聞かせてください。

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政治家妻みゆき